脳卒中について

 

脳卒中急性期の時の対処方法、脳出血、脳梗塞、脳塞栓、くも膜下出血などの説明、慢性期のリハビリテーション、再発予防策などの説明をしています。回復後は、再発予防のために血圧、脂質、血糖、尿酸などの管理がより厳しくなります。

 

脳卒中急性期

 家族が突然に意識をなくして倒れて大鼾をかいているとか、突然に半身麻痺になってしまったなどの症状が出た場合は119番に電話して、「脳卒中らしいので、専門の病院へ連れて行って下さい」とお願いして下さい。脳外科や神経内科の専門病院で、診察や検査をした後、専門的な治療をします。出血か梗塞かで治療が全く異なるから、X線CT検査(コンピュータ断層撮影検査)、MRI(磁気共鳴診断)、MRA(磁気共鳴血管造影)などで脳卒中が脳出血、脳梗塞、脳塞栓、くも膜下出血かを可及的速やかに診断し治療を開始します。

 

脳出血

 脳出血は突然に発症し、脳が広範に破壊され、脳圧(頭蓋内の圧)が高くなるため、呼びかけても反応しないような高度の意識障害、高鼾(いびき)などをかき、生命の危険も高い状態になり、回復した後も重い片麻痺、構音障害などが残り、寝たきりになってしまいます。脳内出血の最大の危険因子は高血圧ですから、普段から血圧の管理が重要です。
初期治療は出血の増大を防ぐために、点滴などで収縮期血圧を150mmHg前後まで下げ、呼吸障害があれば、気管挿管で呼吸を確保し、頭蓋内圧管理のために頭蓋内圧降下薬を投与します。その上で、血腫量や神経学的重症度を参考にして血腫除去術をすることもあります。

 

脳梗塞

 脳梗塞は破壊される脳が少ないため、比較的軽い片麻痺や知覚障害などで発症しますが、症状は軽く、回復後はリハビリテーション後に歩行もできることが多いです。発症後1~2時間内に血栓溶解剤を点滴したりして血栓を溶かすことが成功すると、後遺症なく回復することも多く認められています。比較的早期から体位変換、可動域運動などベッドサイドでリハビリテーションをして、早期退院を目指します。退院後も、血圧、脂質、糖代謝、尿酸代謝などの管理をし、毎日の運動を心掛けるようにします。

 

脳塞栓

 心房細動などで左心房内に出来ていた血栓が剥がれて内頸動脈に流れて来た時に脳塞栓が起こります。血栓が内頸動脈や中大脳動脈などの比較的太い動脈に詰まって広範に血液が停止することが多く、全く前触れがなく重症の片麻痺、知覚障害、構音障害などが起こります。最近では食生活の変化で欧米人と同じように頸動脈のプラーク(血栓)が剥がれて脳塞栓を起こす人も増えています。

 

くも膜下出血

 50歳以下の脳卒中死亡の半数がくも膜下出血によるものです。脳主幹動脈(太い動脈)の動脈瘤が破裂して発症するくも膜下出血の致死率は約30%と高いので、注意が必要です。また、最初の発作から2週間頃に再出血を起こして約30%が予後不良になるため、最初の発作時に手術が必要になります。
症状は突然に起こります。今まで経験したことがないくらいの激しい頭痛、吐き気、嘔吐、意識障害、痙攣などの症状で、急激な脳圧亢進と出血による髄膜刺激症状のためです。X線CT検査、MRI、MRAなどで診断されます。破裂した脳動脈瘤から強い勢いで出血するため、出血する方向に脳があると脳組織は豆腐のように軟らかいので高度に破壊されて致命的になることが多いのですが、反対側の硬膜方向へ出血する場合は破壊されずに済むことが多いため、出血時の状態が明暗を分けます。これがくも膜下出血で亡くなる人から後遺症が無い人までいる理由の一つです。脳血管造影で動脈瘤の場所、大きさなどを確認し、手術方式を決めます。手術は原則として動脈瘤のクリッピング(動脈瘤の根元をクリップで留める)を行い、その後、脳血管攣縮予防のためにくも膜下出血の除去・洗浄を丁寧に行います。動脈瘤が脳幹部に近くの深いところにあったり、症状が重かったり、手術に耐えられないような場合には血管内治療によるコイル塞栓術(カテーテルを用いて動脈瘤部にコイルを留置すると血栓が出来て塞がる)が行われることもあります。

 

未破裂動脈瘤

 未破裂動脈瘤は眼球運動障害などの症状が出る症候性と症状が出ない無症候性に分けられることがあります。症候性は動脈瘤が大きいため、外科的治療の対象となります。無症候性のものは脳ドックなどで偶然に発見されるもので外科的に手術をするべきか否かは、動脈瘤の場所や大きさなどで判断します。殆どの脳動脈瘤は破裂前には無症状ですが、未破裂のうちに治療するのが好ましいのです。しかし、未破裂動脈瘤の手術中に確率は低いのですが破裂してしまうことがありますから、手術成績の良い専門病院で手術を受けることが望ましいと思われます。
手術をしない場合は発見後6ヶ月後の画像診断で動脈瘤の大きさや形の変化の有無を検討します。増大などの所見が認められる場合は手術を勧め、変化が認められない場合はその後1年間隔で経過を見ます。その間、禁煙指導や厳重な血圧管理を続けます。血圧の急上昇によって動脈瘤が破裂してしまうのを予防するためです。

 

無症候性脳血管障害

 脳ドックなどでCTスキャン、MRI検査などの画像診断上で脳梗塞巣や脳出血巣が認められているのに、神経症状がない状態を無症候性血管障害と言います。脳には重要な働きをしている場所と、働きをしていない様に思われる場所があります。運動神経系、知覚神経系などの重要な神経経路である内包などに病変が生じた場合は、小さな病変でも明らかな片麻痺症状が起きてしまいますが、重要な神経経路ではない場所では比較的大きな病変でも、症状が現れない場合が少なくありません。
 脳に所見が見付かった場合は、頚部超音波検査やMRA検査などで内頸動脈や脳の主幹動脈の狭窄があるか、心電図、心臓超音波検査などで不整脈や左心房内に血栓が出来ているかどうかなどの確認をします。左心房や頸動脈に血栓がある場合にはアスピリンやプレタールなどの抗血小板薬などを投与することもあります。

 

脳血管障害の合併症

 急性期の脳血管障害では、呼吸障害、消化管出血、痙攣などの合併症が現れ、嚥下(えんげ)性肺炎、尿路感染症、褥瘡(じょくそう)や深部静脈血栓症が起こりやすくなっています。発症後3ヶ月までの死亡の約半数が合併症によるものです。寝たきり状態では合併症が起こりやすい為、介護をする上で幾つかの注意があります。嚥下性肺炎の予防のため、なるべく粘稠性やとろみのある食品を心掛けます。食事の時、身体を起こして真っすぐに腰掛け、やや頭を前傾し顎を引く姿勢を取るようにして下さい。食事が終わった後も、すぐに寝かせないで食後30分から1時間位は座椅子などを用いて座位や半座位を保つと、その間に蠕動運動で胃の中が空になるので食物や胃液の逆流による嚥下性肺炎の予防になります。加齢に伴って食道と胃の間の噴門部の括約筋が弱っているため、食物が食道へ逆流し、嚥下性肺炎を起こしやすいのですが、食物が胃の中になくなってから横になると、それを未然に防げるからです。口から食事を摂れなくて経管栄養を挿入する場合は、鼻から入れる管の先が肺ではなく胃の中にあることを挿入する度に確認しなければなりません。注射器で管に空気を入れて、聴診器で胃の中で空気の音がすることを確認できない場合は管を入れ直す必要があります。胃管の先端が胃の充分に深い位置にあることを確認してから、ゆっくり時間をかけて栄養液を入れるようにして下さい。昼間1~2時間ごとに体位変換をすると褥瘡の予防になります。仰向けで寝る時に肩関節のところで上腕骨が重力で背中側に落ちてしまって肩関節の脱臼が起こりやすいので、肩関節の下にタオルなどを置くようにしましょう。それを怠ると、上腕神経が伸び切って麻痺状態になるため、上肢の運動麻痺などが起きてしまうことがあるからです。

 

脳血管性うつ状態

 脳梗塞後にうつ状態になることが時にあります。体が思うように動かなかったりして喪失感に襲われるためと思われます。抗うつ薬、マイナートランキライザーなどを使いますが、本人にはうつ状態は改善するという見通しを常に語り、自殺企図などに注意することが必要です。

 

脳血管性認知症

 脳血管性認知症は脳梗塞、脳出血など全ての脳血管障害に引き続いて起きる認知症の総称です。最初の脳卒中発作ですぐに脳血管性認知症症状が現れることは稀で、脳血管障害を繰り返して左右両側前頭葉に病変が出来たときに起こるようです。
認知症そのものを改善させることは困難ですが、なるべく話しかけて大脳の萎縮を進行させないようにします。童謡、唱歌、歌謡曲などの音楽療法も若かった時のことを思い出させたりする効果もあります。抑うつ、意欲低下、不眠などの症状には薬物療法をします。

 

脳血管障害の再発予防

 脳血管障害を起こした場合は、発作を起こした血管だけではなく、他にも同じような症状を起こしてしまう予備軍が控えていると考えます。そのため、再発防止が非常に重要になり、発作を起こす前よりは血圧、血糖、脂質などの厳しい管理を要求されます。
収縮期血圧を130mmHg未満、拡張期血圧85mmHg未満を目標として、食事療法・運動療法などで生活の改善を図ります。それでも血圧が下がらない場合には降圧薬を使います。糖尿病の予防・治療として空腹時血糖126mg/dl未満、ヘモグロビンA1c 6.0未満を目標に食事療法、運動療法を行い、改善しない場合には薬物療法、インスリン療法などでコントロールします。また、脂質異常の管理も重要です。LDLコレステロール139mg/dl未満、HDLコレステロール40mg/dl以上、中性脂肪150mg/dl未満を目標とします。食事療法、運動療法を行い、達成できない場合は薬物療法を加えます。

 

脳梗塞予防の食事

脳の血管をしなやかに、尚且つ、丈夫に保つためには動脈硬化を予防するような食事が必要です。
脳細胞はリン脂質が重要な組成分ですから、良質のたん白質はお勧めで、動物性たん白質と植物性たん白質が同量というのが理想的です。肉・魚などに脂肪が含まれていますから、調味料としての脂肪は1日10gで大丈夫です。植物性脂肪には必須脂肪酸が8種類含まれているので必要ですが、量が多すぎると中性脂肪に化けてしまいますから、ゴマ、菜種(なたね)、ピーナツ、ナッツなども取りすぎに注意が必要です。脳細胞はブドウ糖と酸素しか利用できないので、脳を活発に働かせるためには適度の炭水化物が必要です。炭水化物は最終的にブドウ糖に分解されて利用されるからです。糖尿病の人は血中にブドウ糖が溢れるくらい在ったとしても、インスリンの作用が足りないため利用できず、脳の働きが低下してしまいますが、治療によりブドウ糖を利用できるようになると脳の働きが正常になります。緑黄色野菜、淡色野菜、海草、茸(きのこ)類は1日300g以上摂るのが望ましいとされています。過度の飲酒は脳卒中の発症を増加するため、1日のアルコールを制限します。ビールなら350~500ml、日本酒なら1~2合程度を目安に。肥満は健康管理上リスクが高いので、BMI(体重÷身長÷身長)を25以下にするようにします。